子どものころに読んでいた漫画を、大人になって読み返す。
そういうときって、だいたい「懐かしい」で終わるものだと思っていた。
『でんぢゃらすじーさん』もそうだと思っていた。
でも30歳になって読んでみたら、普通に今でも面白かった。
懐かしいから笑えるんじゃない。
じーさんが意味不明なことを始める。孫がツッコむ。校長がひどい目に遭う。ウンコが出る。鼻水も出る。
小学生のころと同じところで笑える。
そのうえ大人になったせいで、別の笑いまで増えている。
「これを思いついて、本当に原稿にして、本当にコロコロに載せたんやな」
みたいなところまで面白くなってくる。
昔より笑う場所が増えている。
大長編になると、急に「友達って何なんだ」が飛んでくる
じーさんを久しぶりに読むなら、普通の回だけじゃなく大長編も読んでほしい。
特に好きなのが、大長編第2弾の「放たれた友情だじょー」だ。
この話には、ドクター・ジョウという天才科学者が出てくる。
子どものころ、ジョウにはユウという友達がいた。
ジョウは世界一の科学者になる。
ユウは世界一強い男になる。
どちらが先に夢を叶えるか競争しようと約束する。
でも、ユウは病気で死んでしまう。
そこでジョウは、ユウの夢まで終わらせない。
10年かけて科学者になり、ユウをロボットとして蘇らせる。
……これ、『でんぢゃらすじーさん』の話である。
普段はウンコだの鼻水だので暴れている漫画が、急に「亡くなった友達との約束を10年抱え続けた男」の話を始める。
しかも、蘇らせたら終わりじゃない。
ロボットになったユウは、昔の記憶を失っている。
ジョウがずっとユウのために生きてきたことも、二人が友達だったことも、ユウには残っていない。
この時点でもう結構重い。
なのに、ちゃんとじーさんなのである。
「友達なら助ける」で終わらないのが好きだ
この大長編で今読むと引っかかるのが、友情を単純に「友達は助け合おう」で終わらせないところだった。
ユウは、人は一人では生きられないんだから、誰かを頼って生きればいいという側にいる。
一方でじーさんは、最初から誰かに頼るんじゃなくて、まず自分で全力でやってみる。
それでも無理だったときに「一緒に戦おう」と言ってくれるのが友達なんじゃないか、と返す。
これ、30歳で読むと妙に引っかかる。
小学生のころなら「友情っていいな」で読めたかもしれない。
今読むと、自分で頑張るのと人を頼るのってどこで線を引くんだろう、とか。
助けてもらうことと、依存することって何が違うんだろう、とか。
そんなところまで考えてしまう。
じーさんを読んで何を考えてるんだという感じもする。
でも実際、そういう話なのだから仕方がない。
ウンコの漫画が友情をやるからいい
たぶん僕がじーさんを好きなのは、真面目な話をするために急に真面目な漫画にならないところだ。
友情をやっていても、じーさんの世界はじーさんのまま。
シリアスな話の横に鼻水がいる。
大切なことを言うために、急に立派な漫画にならない。
そこがいい。
「友情とは何か」を真正面から100ページ読まされたら、たぶんちょっとしんどい。
でもじーさんなら読める。
笑いながら読んでいたら、最後にちょっとだけ残る。
読み終わってから、「あれ、これ思ってたよりちゃんとした話やったな」となる。
大長編は、これが一本だけじゃない。
今は大長編18本をまとめた『でんぢゃらすじーさん大長編これくしょん』も出ている。
普通のじーさんしか知らない人ほど、こっちも一回読んでみてほしい。
そしてコロコロも、じーさんを全然ベンチに下げない
もう一つ面白いのが、これだけ長く続いているのに、コロコロでの扱いが全然「昔の人気漫画」になっていないことだ。
シリーズは25周年を迎えていて、今も新しく『でんぢゃらすじーさん』として続いている。
普通なら「レジェンド枠」として後ろから見守っていても何もおかしくない。
でも、まだ普通に前線に出される。
これを見ていると毎回ちょっと思う。
じーさん、コロコロの1番DH大谷みたいな扱いになってないか。
ベテランだから下位に置くんじゃない。
「こいつまだ打つから最初に置いとけ」みたいな信頼を感じる。
25年やって、今も新作が続いている。
じーさん本人は多分そんな信頼を背負える人格ではない。
でも漫画としてのじーさんは、ずっとそれに応えている。
30歳になっても、別に卒業しなくてよかった
子どものころは、コロコロはいつか卒業するものだと思っていた。
小学生のときに読んで、そのうちジャンプやもっと別の漫画へ行く。
『でんぢゃらすじーさん』も、「昔好きだった漫画」になる。
でも30歳になって読み返したら、そんなに綺麗には卒業できていなかった。
普通に笑える。
大長編では、子どものころより今の方が引っかかる。
亡くなった友達を10年かけて蘇らせる科学者の話を読んで、人を頼ることまで考えている。
その数ページ後には鼻水で笑っている。
この振れ幅が、やっぱり好きだ。
『でんぢゃらすじーさん』は、子どものころ好きだった漫画じゃなかった。今読んでも普通に面白い漫画だった。